社会との対話としての授業

実務家・実践家が語る「当事者の視点」を通して自ら学んでゆく

2017年1月1日
森田正隆(明治学院大学経済学部経営学科教授)

私は学外の組織と連携して、毎回異なる外部の実務家や実践家をゲスト講師としてお招きする参加型・討議型の授業を2科目開講しています。これらの授業に関して、その特徴や目的、そして運営を通じて感じたことや学んだことについて述べさせていただきます。


地場の金融機関と連携し、現役経営者と学生が意見を交わす授業

2014年度秋学期にスタートし、2016年に3年目を迎えた授業が「経営学特講(経営者の視点:社会貢献とビジネスの両立)」です。

城南信用金庫連携講座として、城南信金さんのお取引先の中から毎回異なる魅力的な地場企業の経営者をゲストにお招きして、経営に関するお話をお聞きしながら議論をするという新しいタイプの授業です。

経営者自身が実体験から学んだ「社会貢献と事業の両立」を語る

お招きするのは、いわゆるサラリーマン経営者ではなく、自ら起業したり、家業を受け継いだりしたようなオーナー経営者のみなさんが中心です。もしも会社が倒産してしまえば、経営者としても自己破産してしまい何もかも失ってしまうような緊張感を持ちながら、責任感と志を抱いて日々真剣に経営に汗を流しているような方々です。

授業では、経営者自身のこれまでの経験や体験に基づいて、社会貢献の捉え方や必要性について、「事業や経営との両立および相乗効果」の視点で講義していただきます。経営者の実体験やエピソードを中心とし、経営者が経験を通じて辿り着いた「理念や哲学」や、経営の面白さや怖さそしてやりがいなどについて親しくお話をしていただいています。

経営者の生の声を聞き、大学生たちの経営に対する興味がよりいっそう喚起され、社会貢献が単なるコストではなく、経営の中核であることを理解してもらえることを期待しています。

「参加&白熱」型のディスカッション

また、毎回の授業の後半では、担当教員や学生も議論に加わって、「参加&白熱」型のディスカッションを展開しています。これまで学んできた経営学の理論や枠組みが実際の経営にどのように当てはまるのかについて総合的に考える貴重な機会となっています。

とくに、この科目を受講してほしいのは、社会に出る直前の4年生と、これから就職活動を控えている3年生です。経営者の生の話を聞き、対話することで、実際の企業活動や経営者の考え方などに関する生々しい知識が得られます。労働観や職業観が変わるきっかけになるかもしれませんし、「こんな経営者になりたい」とか「こういう人のもとで働いてみたい」という発見や出会いがあるかもしれないと考えています。

講義録『現場発!「ともに生きる社会」の経営学』

ちなみに、過去2年の授業内容は、『現場発!「ともに生きる社会」の経営学』というタイトルでこれまで2冊の講義録にまとめて広く関係者や学生たちに配布しました。講義録の制作と印刷に関わる費用は城南信用金庫のご厚意で全額ご負担していただきました。


赤十字とのパートナーシップを活かし、非営利組織の第一線で働く人びとから世界市民としての視点や生き方を学ぶ授業

2013年4月、明治学院大学は創立150周年を記念して日本赤十字社とボランティア・パートナーシップを締結しました。

私はこのパートナーシップを教育にも拡大してゆくことを志向し、堀乙彦日本赤十字社国際部長と一緒に「経営学特講(世界市民としての視点:人道、人権、多様な価値の受容)」という新しい科目を2015年度春学期に立ち上げました。2016年の春学期には2年目の授業を開講しました。

人道・人権・福祉・ボランティア活動の実践家がゲスト講師

赤十字パートナーシップ講座として、毎回、人道・人権・福祉・ボランティア活動に携わっている方をゲスト講師にお招きし、ご自身の経験や体験に基づき、活動の拠り所となる人道的価値観とボランティア精神について、お話しいただいています。

毎回、60分間の講演の後、残りの30分間は担当教員と学生を交えたディスカッションがおこなわれます。質疑応答から始まる活発な議論を通じて、明治学院大学が目指す人道的価値観、ボランティア精神に基づく世界市民としての視点について実践的に学んでいきます。

ひとりの市民として社会や世界にどう向き合ってゆくのか

これまで学んできた経営学の理論や枠組みを踏まえながら、一人ひとりの市民としてこれからの社会や世界に対してどう向き合ってゆくのかを深く考え、職業・仕事・生きがいについて考える上でも新たな視点を得る貴重な機会になっています。

自分自身の幸福観・価値観・職業観・世界観などを今一度しっかりと見つめなおすとともに、企業などの営利事業だけでなく非営利の世界にも多くの仕事や職業が存在することを改めて知り、社会にはばたくための心構えを作るきっかけとしてもらえればと意図しています。

これまでの授業では、毎回ゲスト講師の熱い体験談や思いが披露され、学生たちを巻き込んで感動的な時間と空間が生まれました。人生観や価値観が変わったと口にする学生たちもいました。


私が運営している参加型・討議型授業の特徴

それでは、私が運営しているこれら2つの科目に共通している運営上の特徴について、以下にまとめてご紹介いたします。

  • 現場で現実の世界・社会・市場に直面して日々真剣に仕事に取り組んでいる「当事者」の方々をゲスト講師にお迎えし、お仕事の内容だけではなく、ご自身の幸福観・価値観・職業観についても語っていただく。
  • 一方的な講義・講演ではなく、担当教員も交えながら、ゲスト講師と学生たちの間で活発な議論がおこなわれることを企図する。
  • 授業回数は全15回。計14名の外部ゲスト講師を招き、最終回ではまとめの講義の後、車座になって全員が発言するディスカッションをおこなう。
  • ゲスト講師の人選・依頼・日程調整などは、城南信用金庫や日本赤十字社といった外部組織の力を借りながら連携しておこなう。
  • ゲスト講師は無償のボランティアとしてお越しいただくので、謝礼はお渡ししない。
  • 授業の前に、e-learningのサイトを通じて、講義資料の配布をおこなう。受講者は資料に目を通してくるとともに各自で手元資料を準備してくる。
  • 授業では、ゲスト講師が60分間講義をおこない、残りの30分間で、質疑応答やディスカッションをおこなう。
  • 授業の後に、e-learningのサイトに作成した掲示板に受講者全員が質問や感想を書き込む。締切は授業の1週間後。集まった質問や感想はファイルにしてゲスト講師に送信し、後日フィードバックを返していただく。フィードバックのファイルは、e-learningのサイトに投稿し、受講者全員が閲覧できるようにする。
  • 全授業終了後、期末レポートが課される。授業で学んだことを大きく3点にまとめて、2千字以上で作成し、提出する。
  • 毎回の授業貢献度(30%のウェイト)、期末レポート(40%のウェイト)、およびオンライン掲示板での議論貢献度(30%のウェイト)を合計して成績評価をおこなう。

授業運営を通じて、私自身が学んだこと・感じたこと

ゲスト講師をお迎えしておこなう参加型・討議型の授業運営を通じて、担当教員である私が学んだことや、日ごろ強く感じていることを以下にまとめてみます。

  • 現実の社会で悩みながらも喜びややりがいを感じながら働き、そして奮闘している「当事者」の話を聞くことを、学生たちは新鮮に感じ、強い興味を持っている。
  • 単に話を聞くだけでなく、疑問に思っていることや感じたことをぶつけることに、直接反応をもらえることに学生たちは手応えを感じている。普段の授業では考えられないくらい、活発に質問が出ることも多い。
  • 授業終了後、何人かの学生がゲスト講師を取り囲んで質問したり懇談したりして、講師をなかなか帰そうとしないという風景もよく見る。
  • 寝ていたり、私語をしたり、スマホをいじっているような学生がいると、ゲスト講師に対して大変失礼であり、今後の授業の存続にも関わるため、担当教員として不安を感じる。強圧的に注意するだけでは、雰囲気が悪くなるだけなので、私と同じような気持ちを学生たちにももってもらえるような意識づくりをおこなうことが大事だと考える。授業の冒頭で、私の思いを毎回披露することで、少しずつ雰囲気づくりができているような気がする。
  • 明学の卒業生がゲスト講師の場合、強い親近感を覚えるとともに、「ああいう人に自分たちもなれるかもしれない」という憧れと希望を感じるようである。
  • 座学で学んだことではなく、ゲスト講師自身が厳しい経験を通じて自ら痛みを伴って学んできたことや、年月を経て築き上げてきた信念や理念というものに、学生たちは強い説得力を感じるようである。
  • ゲスト講師が、古典を読んだり、きちんと体系的に勉強することの重要性を自らの経験をもとに話してくださることで、普段の勉強に対する意識づけにも役立っているように思える。
  • 第一線で働く実務家・実践家をゲストにお招きするには、担当教員の人脈だけでは決定的に足りない。城南信用金庫や日本赤十字社のような理解のある連携先がなければ、このような授業は運営できない。そして、組織対組織だけでなく、個人どうしの信頼関係や思いの共有がなければ、そもそも実現しない。城南信用金庫では吉原毅相談役(前理事長)が、日本赤十字社では堀乙彦国際部長がいなければ、科目を立ち上げることも、継続することも不可能であった。
  • 連携先を巻き込んでゆくためには、「こういう教育をしたい」「学生本人にとってプラスになるだけでなく、必ず社会にとってもプラスになる」といった強い思いを訴えかけて共感してもらい、「ともに実現しよう」と思ってもらえる仲間に巻き込んでゆく必要がある。これは、ゲスト講師に依頼する時も同様である。
  • 機械的に依頼し、相手も義務感で講義するようになってしまうと、途端に授業のクオリティーが低くなる。授業に関するこちらの意図や要求水準をきちんと理解してもらえるようなゲスト講師でなければならない。
  • 3年目になってくると、ノウハウもたまり、仲間や理解者も増えてきて、格段にやりやすくなってくる。城南信用金庫連携講座の場合、2年にわたって毎年講義録をまとめてきているので、それを配布した先から協力者が現れてきている。また、日本赤十字社では、近衞社長や大塚副社長というトップが全面的に理解・支援してくださるようになってきた。
  • 学生の受講態度や、授業後に掲示板に書き込む質問や感想の内容が、ゲスト講師にとって手応えを感じていただけるようなものであると、彼らが「明学の学生っていいですね」と云ってくれ【明学ファン】になってくれる。
  • 話をするのがあまりうまくないゲスト講師の場合、そのままだと学生たちが集中力を失ってしまいがちなので、担当教員がインタビュアーのような役割を演じて話を引き出したり、先に進めたりするようにしている。これを私の授業では「徹子の部屋」方式と呼んでいる。
  • 授業ではおとなしく無反応に思える学生が、授業後のオンライン掲示板への書き込みでは具体的で個人的な内容の濃い投稿をしてくることがある。このような仕掛けの重要さを改めて思い知らされることとなった。
  • 普段の授業と比べて、担当教員の負担感は相対的に大きい。やりがいを感じていなければできない授業運営だとは思う。

学生たちの反応

それでは、このような授業を受講した学生たちの反応をご紹介いたします。以下は、期末レポートから抜粋したものです。

  • 仕事はやらなければならない義務的なイメージを私は勝手にもっていたのですが、経営者の方の生き生きとした姿に憧れを持つようになりました。私も、自信をなくさずに今自分にできることを考えて必死にこなしていき、何事もやるからには楽しく情熱を持って取り組みたいです。(中略)この有難い経験を決して無駄にすることのないよう、自分が今までとったメモと、いただいたフィードバックを大切に保管して、行き詰まった時や自信を失くしてしまいそうな時に見返そうと思います。
  • この講義の方々との出会いは私にとって貴重な財産となる。いつか出会いの大切さを伝える立場になり、価値観を伝えられるような人間になりたい。出会った経営者の方々のように力強い握手ができる人間になりたいと感じた。
  • 経営者の視点という授業であるにも関わらず、人間性を学ぶということが面白く、毎回この授業が楽しみでした。就職活動前にこの授業を受けることができて良かったです。受ける前の自分と受けたあとの自分で考え方が変わったことに驚きを覚えています。
  • 普段の一般教養科目や経営学科科目の授業と違い、具体的な学問の事項以外でのゲストスピーカーの話を聞いて、質疑の時間もあったため、より人と人との思いやりや明学の建学の精神でもある他者への貢献について実際に学ぶことが出来たと思う。経営学は単にビジネスのために学ぶのではなく、経営者としての視点によって決断をしてゆくことで組織全体の人間や社会、国際社会の貢献にもつながる、インパクトを与えるもととなるような学問なのだと思った。
  • これまでの私の考え方と180度変わりました。21歳という年で大事な難しい問題を知ることができたこと、また今回学んだことは社会人になっても絶対に役に立つと思います。このような、貴重な話をきける授業がもっと多くなれば良いと感じました。これからは、今回多くの良い知識をまだ知らない人に伝えることができたらいいと思います。また、ボランティアも積極的にやって行きたいと思いました。
  • 初めは、赤十字社の方の話はマーケテイングや経営に関係ないと思っていた。しかし、15回全ての講義を終えて振り返ると、たくさんの事を学ぶことができ本当に良かったと思うと同時に、人間として大切なことを学べたとも思った。人間はどうしても自分勝手になりがちだが、いつもより多く想像力を働かせたり、少し立場を変えて考えてみたりするだけで、味方が大きく変わるということが分かった。これから生きていく上でとても大切なことを数多く学ぶことができ、人間としても成長できたのではないかと思う。
  • 森田先生がおっしゃっていたようにこの授業では知らなくても良かった事実をたくさん知らされることになったが、それは私にとってモヤモヤ感を増やしていくと同時に「日常生活では絶対に知ることができない現実を目の当たりにできた」という達成感にもなった。このあとの三つ目の点にもリンクするが、普段自分が勉強しているマーケティングのみならず普段の生活の中で様々な視点にたって物事を考えるためには様々な価値観を理解する必要がある。そのためには第一に多くの情報を得てこの世界にはどれだけ異なる価値観を持った人たちがいるのかということを感がる必要があるのではないかと私は思った。
  • 先日、経営学特講の春学期最後の授業がありました。そしてその内容は、個人的にではありますが春学期で一番良い授業だったと思います。もちろん講師の方々のお話はいつも勉強になるのですが、そういう話を半年間学んできた、「もともとは何も知らなかった」人たちの話がこんなにも興味深いものだとは思いませんでした。同じ立場の人と意見を交換することも実は貴重な場なのだと思います。そして自分自身も思いを言葉にして伝える機会があって良かったと思いました。
  • 最後のひとつは、この授業の中でたまに言っていたもやもやのようなものについてである。とても心に残った言葉がある。「出会いひとつで考え方が変わり、態度が変わり、行動が変わり、生き方が変わっていきますね」という森田先生の言葉である。(中略)この授業をうけて、ここでの出会いで、考え方が変わり、態度が変わり、行動が変わり、生き方が変わった。今の自分ならば、何かあったときに、すぐに行動に移すことができる自分になれた。この15回の講義は、お金を稼ぐのに役に立つわけではないし、就職活動のときに有利になるわけではないが、この講義を受けたことによるこれからの人生の変化は、この講義をうけていないひとよりもよりよくなっていくのではないだろうか。

以上、私が運営している参加型・討議型の授業についてご紹介してきました。

私の担当する授業は、明治学院大学関係者であれば、基本的にいつでもご見学していただいて結構です。

日頃、試行錯誤を繰り返し、失敗から痛い思いをしながら学んでいる修行中の日々ですが、私の経験が何かのお役に立てれば幸いです。

Do for Others.

2017年1月1日
森田正隆(明治学院大学経済学部経営学科教授)